ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告

ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告
価格 1,980円(税込)
ISBN 9784296110919
発行日 2022年03月22日
著者名 日経コンピュータ
発行元 日経BP
ページ数 312ページ
判型 4-6

https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/22/284610/

みずほ銀行の一連のシステム障害に関する検証報告を取りまとめたもの。
第三者委員会は、システムの構造や仕組みよりもむしろ運用する人的側面に問題があったという報告を残している。しかしガバナンスの観点での記述がほとんどなく、コンプライアンス意識が欠如していたとか品質管理の検証が不足していたという総花的な記述に加え、システムの開発や運用面での「これが足りなかった」「こうであれば・・・」という現場での失敗の説明が中心となっている点は、残念である。役員の選任や予算のプレッシャや、あるいは意味を喪失しつつある窓口業務などがどのように経営陣に捉えられて、システム構築や運用に与えた影響が、最も重要な議論点であるはずだ。


入門ガイダンス情報のマネジメント〈第2版〉―不確実性への意思決定アプローチ

入門ガイダンス情報のマネジメント〈第2版〉―不確実性への意思決定アプローチ

https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-35091-7

「情報」をキーワードとしたときに何を勉強したら良いかを解説するガイダンス。教養課程の学生向きの読本なのだろう。

サブタイトルにある不確実性については、ファジー理論から始まり期待効用仮説や、最近のプロスペクト理論なども紹介されて、次第に経営情報へと話を展開している点が、やや斬新さがある。


予測不能の時代

http://www.soshisha.com/book_search/detail/1_2511.html

予測不能の時代

組織の中での活動が活性化していることを、働く人の身体の微妙な動きをセンサーで感知することで定量的に測定する方法を考案した著者。もともとは物理学(量子論など)を研究している方のようだが、日立の半導体事業売却に伴い職種を転換、IoTセンサデータなどを用いて分析する事業を立ち上げ。

予測不能な時代とは、これまでの経験や成功法則がそのまま通用しない時代。PDCAで言い習わされる管理手法が通用しないのは、それを手際よくこなす前提には変化が少ないことがあるからだ。

不確実性の高い時代には、より高い目的に向かって前向きに取り組む人がたくさんいる組織のほうがうまく行く、またそういう組織はFINEという共通の特徴を持ち、働く人が幸せを感じていることが、センシングから分かってきた。

Flat: 人との繋がりが特定の人に偏らずにバラけている
Improvised: 短時間の会話がいろいろなところで発生している
Non-Verbal: 言葉ではなく動作での相槌などがコミュニケーションで機能している
Equal: 発言権が平等である

「悪い会議」を想像すると、この意味するところは容易に理解できる。

もう一つの議論は、幸せを感じることは一つの能力であり、幸せは与えられるものではないという点である。その能力ある人が「互いに相手のこころの資本を高め合う」ようになるとよい組織が形成される。

そうすると仕事のやり方が、
・目標と現実のギャップを埋めることよりも大義や意義にこだわり手段にこだわらない
・準備を整えてから取り組むよりも、ないないづくしの環境を受け容れて一歩ずつ進む
・目的に向けての合理的説明が可能なときに動くよりも、困難を学びの機会とする
・損失に備えて責任範囲を限定するよりも、新たな人との偶然の出会いを活用し、変化の中にチャンスを見出す
ようになる。著者は効率化を否定しているわけではなく、効率化を求めるほどに幸福化を求めなければ、組織は前向きに取り組む姿勢を失ってしまうと指摘している(p149-151)。

「格差とは量子効果である」という物理学者なりの主張は興味深い。量子の世界では数少ない量子を扱おうとすると、いろいろとイレギュラーな現象が発生するという。量子が集まれば流体になるので量子単位での現象ではなく流体としての現象と捉えられるので、量子効果が消えていく。

これに例えて、処遇における不平等よりも結果としての配分の不平等が大きくなるのは、人という離散的対象(量子)にお金という離散的な移動しかできないものを配分しようとすることにより生ずるばらつきであるというところが骨子だ。

社会の不平等は放置しておくと拡大していくという点についてエントロピー増大の法則に当てはめるのはいささか論理が飛躍している感じが拭えないが、かといって明確に反論するほど読み込んで理解していないので、この点は別の機会に掘り下げてみたい。


経理から見た日本陸軍

経理から見た日本陸軍

著者はかつて防衛省で経理業務に関わっていた経歴があり、歴史好きと業務への関心とが相まって日本陸軍の経理の研究をするために大学院にいき研究者への道を進んだという経歴を持つ。

軍の経理に限らず、かつて経理は帳簿ツケではなくロジスティックスを扱う業務であった。つまり資源の配分(配送なども含む)を通じて円滑な業務の運営と最大限の効率に資することが経理業務の要諦である。つまり軍隊においては武器弾薬に限らず軍人の衣食住に関わるあらゆる調達を、予算制約をする大蔵省と要求する現場の軍務との間にあって、最適資源配分を目指す。

本書はこれまであまり顧みられることのなかった軍隊における細かなお金の話(それこそ、食事の内容と原価の関係など)に切り込んでいるところが斬新で、新書という形で読みやすく出された点は評価できる。

ただ残念なのは、それらがマクロな戦局とどのように絡んだのかという点、いわゆる日本軍の戦略行動が経理からどう見えたかという話はほとんど触れられておらず、どちらかというと経理の手続などが中心に議論されている。

今後の研究に期待したい。


はじめてのオペレーションズ・リサーチ

2020年4月25日読了

OR(オペレーションズ・リサーチ)については学生時代に生協に積んであった宮川公男先生の「OR入門」が印象にある。教養課程の講義だったが当時はまったく関心がなく言葉だけが記憶にある程度。
本書はもともと講談社のブルーバックスで刊行されたものを筑摩書房が再版したもので、書店で偶然眼に入ったので購入。

ORとはハードウェアの運用の見直しのための調査検討して実際の対応を試験して問題解決に活かす考え方。問題解決はハードの性能向上に依って可能なこともあるが、現実にそれを待っていても時間や資金が許さなければ、運用に依って解決を図るしかない。運用で解決するには問題の捉え方を変える(つまりハードに帰責出来ない)ことになるが、それはオペレーションを変えるためにあえて戦略的に物事を考えること通じるものがある。大元は、なんの目的もなく開発された英国の電波レーダーをどのように用いたらよいか考えるプロジェクトから始まった。

本書で紹介されている問題は、航空機による特攻に対して戦艦側がどのような退避行動をとればよいかとか、戦場で食器を洗う兵隊の行列をいかに短くして休憩時間を稼ぐかといった、実践的(実戦的)問題が多い。そして全体を通して使われる事例が、戦闘場面で敵の(能力が異なる)戦車が二台現認されている状況で味方はどう攻撃すればよいか、という例を懇切丁寧にORの思考プロセスや方法を追いかけながら、一冊の本に仕上げている。通常、この手の本にありがちな、数式だらけとか概念定義ばかりとか、たくさんの手法で圧倒するようなところは一切ない。ゆえに、OR理論や技法について正確でもなく網羅的でもないが、わかりやすいしわかった気になる。

しかし著者のメッセージは明確で、ORは実践の中で鍛える能力であり、問題を発見してモデル化するところが実はとても難しい。
さらに、ORによって導き出された結果をそのまま上官に報告することはやってはならず、自分の現場認識を加えた判断を報告することが大切であることを強調している。いわば方法論だけ分かった気になりモデルを作って数字をこねくり回して結果を出して報告する者を、「にわかORワーカー」として戒める。

本書にもあるモデルを作ってモンテカルロ法でシミュレーションする方法は、統計学や機械学習の本には多く紹介されているが、そういった書物にはORとの関連は述べられていないし、逆に本書にも(書かれたのが古いから当たり前だが)機械学習等への言及はない。ただ、モンテカルロ法が1945にフォン・ノイマンによって考案されたというあたりを知ると、ルートはやはり軍事だったのかということがわかる。

軽い気持ちで購入した本だが、監査における統計学や機械学習の援用にもかなり強い示唆を得た。解決モデルを書物に求めるのではなく現場の実践に見出すことが必要であり、逆に現場にいる者には「見えるようになる」ためにも、ORの視点をインプットしておくことは肝要であろう。