はじめてのオペレーションズ・リサーチ

2020年4月25日読了

OR(オペレーションズ・リサーチ)については学生時代に生協に積んであった宮川公男先生の「OR入門」が印象にある。教養課程の講義だったが当時はまったく関心がなく言葉だけが記憶にある程度。
本書はもともと講談社のブルーバックスで刊行されたものを筑摩書房が再版したもので、書店で偶然眼に入ったので購入。

ORとはハードウェアの運用の見直しのための調査検討して実際の対応を試験して問題解決に活かす考え方。問題解決はハードの性能向上に依って可能なこともあるが、現実にそれを待っていても時間や資金が許さなければ、運用に依って解決を図るしかない。運用で解決するには問題の捉え方を変える(つまりハードに帰責出来ない)ことになるが、それはオペレーションを変えるためにあえて戦略的に物事を考えること通じるものがある。大元は、なんの目的もなく開発された英国の電波レーダーをどのように用いたらよいか考えるプロジェクトから始まった。

本書で紹介されている問題は、航空機による特攻に対して戦艦側がどのような退避行動をとればよいかとか、戦場で食器を洗う兵隊の行列をいかに短くして休憩時間を稼ぐかといった、実践的(実戦的)問題が多い。そして全体を通して使われる事例が、戦闘場面で敵の(能力が異なる)戦車が二台現認されている状況で味方はどう攻撃すればよいか、という例を懇切丁寧にORの思考プロセスや方法を追いかけながら、一冊の本に仕上げている。通常、この手の本にありがちな、数式だらけとか概念定義ばかりとか、たくさんの手法で圧倒するようなところは一切ない。ゆえに、OR理論や技法について正確でもなく網羅的でもないが、わかりやすいしわかった気になる。

しかし著者のメッセージは明確で、ORは実践の中で鍛える能力であり、問題を発見してモデル化するところが実はとても難しい。
さらに、ORによって導き出された結果をそのまま上官に報告することはやってはならず、自分の現場認識を加えた判断を報告することが大切であることを強調している。いわば方法論だけ分かった気になりモデルを作って数字をこねくり回して結果を出して報告する者を、「にわかORワーカー」として戒める。

本書にもあるモデルを作ってモンテカルロ法でシミュレーションする方法は、統計学や機械学習の本には多く紹介されているが、そういった書物にはORとの関連は述べられていないし、逆に本書にも(書かれたのが古いから当たり前だが)機械学習等への言及はない。ただ、モンテカルロ法が1945にフォン・ノイマンによって考案されたというあたりを知ると、ルートはやはり軍事だったのかということがわかる。

軽い気持ちで購入した本だが、監査における統計学や機械学習の援用にもかなり強い示唆を得た。解決モデルを書物に求めるのではなく現場の実践に見出すことが必要であり、逆に現場にいる者には「見えるようになる」ためにも、ORの視点をインプットしておくことは肝要であろう。

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