村野藤吾と俵田明 革新の建築家と実業家

村野藤吾と俵田明 革新の建築家と実業家

堀 雅昭(ほり・まさあき)

320頁
978-4-86329-228-4
定価 2200円 (+税)
2021.8.15発行

https://genshobo.com/archives/10506

村野藤吾は小倉出身の世界的建築家であり戦前の若い頃に宇部市の渡辺翁記念会館を設計した人物である。また最後の作品とされるのが同じく宇部市の宇部興産ビル(渡辺翁記念会館の斜め前にある)という縁。
俵田明は宇部興産創業にも関わり、本書では村野のスポンサーとして位置づけられている。

また著者は宇部市で活躍する郷土史家でもあり地元に関する作品を多く書いている。

本書は宇部市制施行百周年となった2021年に出版され、明治から石炭によって発展していった宇部の近代史を二人の人物を通じて学ぶには良い教材となる。宇部とドイツのナチスとの関係や作品への影響などにも触れられており、決して地元讃美だけの内容ではないが、一地方都市の栄枯盛衰を知る上でも役に立つ。

尖った芸術家に対してパトロンが果たす役割も本書を通じて知ることができよう。


関門の近代

関門の近代

著者は宇部市在住の郷土史家で、地元紙にも連載している著述家である。
本書はジュンク堂で別の本を探しているときにたまたま見つけたものだ。

関門(古くは馬間)海峡は山口県下関市と福岡県北九州市に挟まれたところにあるが、源平合戦で入水した安徳天皇をお祀りする歴史を持つ下関と、もともとは塩田くらいしかなく明治以降に急速に発展していく門司とが、海峡を挟んでお互いに競争して成長していく時代の歴史を綴ったものだ。

明治22年の憲法発布から昭和33年の北九州市発足までを扱い、その間の日清戦争・日露戦争・大東亜戦争・朝鮮戦争によって海峡の役割(経済的、軍事的)が大きく変わっていく中で、両市が変化していく様子は、日本全体の成長の縮図とも言える。

これまで全く知らず驚嘆した内容は、「関門県構想」であった。門司を中心とする北部九州と山口県側の下関を中心とする地域を統合して一つの県となし、残りの山口県は広島県に統合しようという構想である。日露戦争直前の国会にも出された話でおそらく日露戦争がなければ議会を通過したかもしれない。