不屈の棋士

不屈の棋士 (講談社現代新書)
大川 慎太郎
講談社

2016年10月1日読了

コンピュータの能力が人間を超えるという意味合いを象徴することの一つに、囲碁や将棋におけるプロとコンピュータとの対局が取り上げられる。

本書はコンピュータにほぼ凌駕されている将棋の世界において、プロ棋士たちに率直に、1使っているか、2どのような使い方をしているか、3公式の対局に出る意思はあるか、4勝ち負けやレーティングについてどう考えるか、5コンピュータが強くなってしまった時のプロ棋士としての存在意義は、ということを問うているインタビュで構成される。

囲碁にしても将棋にしても、究極的には勝負によって強い弱いが決まるので、ゲームとして考えればゲーム自体の解(つまり最善手が続いても必ず勝敗が決まる究極の答え)が明かされているわけではない。人間は学習と研鑽と勝負という形においてその域に達しようとし、コンピュータの開発者は計算能力とアルゴリズムによってそれを達成しようとする。求めているところは同じでも方法論が異なるわけで、そこにおいてどちらに優劣があるというものではない。そこをあえて人間対コンピュータという枠組みを作って勝敗を競うという方法に何の意味があるのかを問おうとしているのが、この本の面白いところである。

著者は将棋の対戦記者でもあり日頃から付き合いのある棋士でもあるため、こういう取材ができたのだろう。

昨今、「人工知能によって奪われる仕事」というやや煽情的な雑誌記事などが紹介されることがある。しかし、囲碁・将棋の例を持ち出すこともなく、効率性や経済性においてコンピュータを使うことが便利であればそれは使ってしかるべきだし、人力車が職業として残るべきだと考える必要もない。むしろ、過度な期待を抱いてすべてが人工知能によって実現されるという妄想を抱くほうが危険なのではないか。なぜなら、人工知能に限らず技術は単に今の社会枠組みの中にある機能や行為を置き換えるのではなく、枠組みそのものを変えてしまうのだから。