開国のかたち

松本健一(著)岩波現代文庫(2008年)
著者による週間エコノミストへの連載を一冊にまとめたものである。
凡そ歴史とは、現代に連なる時の流れを後の時代において意味解釈したものであり、歴史を論ずるにあたっては必ず論者の歴史観を支えている視座が大きく影響する。通俗的には、幕末維新は、幕府、京都、薩摩、長州、会津などの「幕藩体制」という組織的視座で捉えられ、黒船をはじめとする列強の外圧という環境因子が、雄藩を動かし倒幕に至ったとされているが、実際の組織の振る舞いはさほど単純ではない。

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幕末・英傑たちのヒーロー・・・・靖国前史

一坂太郎(著)朝日新書(2008年)
現在の靖国神社の前身が東京招魂社であり、それが戊辰戦争における官軍側の戦死者を祀ったものであることがそもそもの起こりであることはよく知られている。
一方、兵庫の湊川神社は、楠木正成を祀った神社であるが、こちらも戦前の教育を受けた人なら、建武の親政の後醍醐天皇を守るために足利尊氏を相手に戦死した英雄であることは知っている。
著者はこれらの共通点としていずれも後世の人たちから政治的に利用され、その本旨が歪められていることを言っている。
しかしこの目論みはあまり成功したとは言えない。各章のつながりが上手く取れておらずむしろ幕末の人物を取り上げて、淡々とそれを論じていったほうが、かえってよかったのではないか。
幕末時代には楠木正成が倒幕の象徴として扱われ英雄であったこと、吉田松陰や水戸学派は楠木正成を尊敬していたこと、高杉晋作の奇兵隊は菅原道真を守護神としていたこと等を記録等から分析し淡々と紹介していることのほうが、読み手にはインパクトがあったと思える。
同年齢の著者に対するファンの一人としては、出版に当たって出版社の意図が加わったのではないことを祈りたい。