吉田松陰――久坂玄瑞が祭り上げた「英雄」 (朝日新書)

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一坂太郎
朝日新聞出版 (2015-02-13)

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著者はかつて下関の東行庵（高杉晋作記念館）の館長を務めていた人で、幕末維新史の人物についての著述が多い。
今回は久坂玄瑞。名前はよく知られているが、医者の家に生まれ、松下村塾で学び高杉晋作と「松門の双璧」と称され、攘夷運動に入り、禁門の変で戦死したという程度の知識であった。今年の大河ドラマ「花燃ゆ」では松陰の妹文と婚姻した人物として描かれている。

現代の松陰のイメージは、松下村塾の教育者、尊王国粋主義者、テロリストなどの極端なものがあるが、特に維新の英傑を育てた英雄としての松陰を演出したのが久坂であるという。

松陰死後の著作の出版や、小塚原回向院から世田谷への改葬などを企画し、純粋に行動する松陰を攘夷の精神的支柱としてシンボル化し政治的に利用したという。心情的には純粋であり行動が極端な松陰は政治的に利用しやすい人物で、松陰がもてはやされる時代は維新、大東亜戦争など政治的にはあまりいい時代ではないとの見解は著者ならではだが、歴史人物の評伝をそのまま受け入れるのではなく史料を読み解きながら考察していく必要性は学ぶところがある。

高杉晋作が奇兵隊を創設した際に身分を問わないという形をとったという点についても疑問を呈しており、今後の研究が必要だとしている。