技術大国幻想の終わり これが日本の生きる道

2015年10月3日読了

日本が「技術大国」であるというのは、大田区の中小企業の職人や燕三条の金属加工など色々な「手わざ」を拾い上げることでマスコミによって植えつけられている。しかしそれをもって日本全体の技術が優れているという証明にはならず、むしろ技術のもたらす「価値」に着目して、顧客志向で技術を捉えていく必要があるという尤もな話である。

著書の警告は、一見すごい技術であっても真の競争力を発揮するためには、(顧客などの)価値を見出すためには、技術を技術の領域にとどめず経営観点から捉えなおす必要があるということだろう。

そのために、考え方を変える、からくりを変える、教育を変えるという、3つの変化を提唱する。

考え方を変えるというのは、成長途上にある社会においては色々な試行錯誤によって新たな考え方も柔軟に取り入れられるが、現代のような成熟社会においては豊かな生活が「所与」のものとなってしまい、新しい考え方を取り入れようという意欲が低下してしまう「考えの硬直化」への警鐘である。

からくりを変えるとは、高齢化社会、人口減少社会においては、従来のような効率重視だけではなく大事なものを「継続」していくという視点での社会構造を作り上げる必要があるという。過去の投資インフラを上手に使っていけば、人口8千万は必ずしも悪いものではない。

教育を変えるとは、人材の育成という当たり前のテーマにおいて、従来の知識重視(偏重ではない)のベースの上に、自分で物事を捉えてモデル化して仮説を導ける能力、そして仮説が誤っていれば更新しながら問題を解決していく能力を備えた人材を増やしていく必要があるということだ。

学者が書いた本にしては内容はシンプルで淡々と読めるものだが、福島原発の事故におけるリスク管理の考え方など、扱っているテーマは重く、技術者らしい分析が含まれているので、新たな視点を提供してくれる一冊であった。

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