木田元(著)岩波新書(1970年)
現象学はいかなる意味においても一つの体系、一つの学説としては完結し得ない。それは一つの運動であり、いわば未完結性をその本質としている。・・・・徹頭徹尾世界や歴史に内属する人間の哲学・・・・なのである。
現象学とは、世界のなか、歴史のなかでのわれわれの経験に問いかけ、その意味を解読しようとする果てしない努力である。言いかえれば、われわれは、さまざまな経験がわれわれのもとで接合するのをたえず目撃しているわけであるが、その全体的経験の文脈のなかで個々の経験が何を言おうとしているのか、何を意味しようとしているのかを、不断に問いつづけようということである。
(p199-p200)