海の都の物語—-ヴェネツィア共和国の一千年

塩野 七生(著)新潮社 (2009年)
海の都の物語〈1〉―ヴェネツィア共和国の一千年 (新潮文庫)
海の都の物語〈2〉―ヴェネツィア共和国の一千年 (新潮文庫)
海の都の物語〈3〉―ヴェネツィア共和国の一千年 (新潮文庫)
海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈4〉 (新潮文庫)
海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈5〉 (新潮文庫)
海の都の物語―ヴェネツィア共和国の一千年〈6〉 (新潮文庫)


タイトルどおり、ヴェネチアのおこりからナポレオンによる侵攻で崩壊するまでの、海洋国家の栄枯盛衰の話である。もともとヴェネチアは複式簿記発祥の地といわれており、以前から興味があったが、それについてもほんのわずかだけ触れてあった。
テーマは、国土もないような小さな都市国家がどのようにして繁栄を築き、さらにまたなぜ崩壊していくかという、壮大な物語である。
ヴェネチアという国の繁栄は、信用に基づく地中海貿易の支配による富であり、航海の安全を保障し相互の利益を確立するという方式で、貿易拠点を拡大していくという方法で大きくなっていった。
そこにトルコ帝国による拡大と、ポルトガルによる喜望峰ルートの発見から始まる大航海時代で、地中海貿易の相対的地位の低下がもたらされる。
ヴェネチアは海洋国家らしく領土的野心は全く持たないが、歴史を経て勢力を拡大していく中で、属領を持つようになり、領土を必要とする農業の比重が重くなっていく。
そのような中で、領土的野心の固まりのようなトルコ帝国の攻撃、さらにはスペインとの戦争などを経て徐々に貿易利権を失っていく。
国家がその形で国家として存在する意義を考えさせられる。同時に、千年というときの流れを対象として記述されているので、読み手は気づいたとしても、毎日徐々に変化していく世の中の流れに対して、一つの国が変化し続けていくことの難しさや、国のおかれている環境(ヴェネチアの場合には都市国家としての)が持つ限界のようなものを感じざるを得ない。
宗教的対立は経済関係の構築で克服できても、経済力も所詮、軍事力の前には無力なのかとか、企業のM&Aのように国家間の平和的統合や構造変革を実現する手段は、人類はまだ生み出していないのか、といったことを考えさせられた。

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