データ資本主義 (ビッグデータがもたらす新しい経済)

データ資本主義 (ビッグデータがもたらす新しい経済)
ビクター・マイヤー=ショーンベルガー トーマス・ランジ
NTT出版 (2019-03-25)

2019年7月14日読了

GAFAによるデータの独占が話題になっているが、それ以上に深い警鐘を鳴らすのが本書。
端的には、データが貨幣以上の価値を持つようになり、想定的に貨幣の役割が消えていくことになるため、経済の構造が貨幣経済の時と全く変わってしまうということを訴えている。

それをデータ資本主義という言葉で翻訳しているのだが、原書はReinventing Capitalizmなので資本主義の再発明という意味だ。

著者の慧眼は、いわゆる時価会計についての議論にも及んでいる。時価会計は、取得原価主義会計が歴史的に取得された過去の資産の価額を表しているので情報としての価値がないという考えと、時価で純資産を開示することは一時的な価値変動を貸借対照表に反映させ、かえって企業情報を見誤ることになるとお互いに批判しあっている。しかし著者は、ある瞬間を切り取って開示した情報によって意思決定することは難しいので、「特定資産の保有期間に関する企業側の意向、資産価格の変動幅、それに伴う相対リスクなど、もっと深みのある詳細な情報を伝達できる新たな会計方式」が必要であると論じている(p203)。これは時価が良いかどうかではなく、貸借対照表等による企業の財政状態の提供方法について限界を指摘していると言えよう。その他、エネルギー消費、環境負荷、労働基準なども反映することがデータリッチな環境ではできるのではないかと示唆している。このあたりは統合報告に既にその兆候が出ていると言えるのではないか。

また、AIに仕事を奪われるかどうかの議論をしているうちに、そもそもデータリッチな市場においては、現時点では将来における職業の見込みは立たないため、3年後にニーズが高まる勉強をしても10年後にはあまり求められなくなる可能性もあるという。

こういう社会に、データ納税という考え方や、人間を採用した場合の税金の控除や、労働と賃金との切り離しなどの政策が必要となるだろうと言っているが、すぐにではないにせよ、現代社会が抱えている問題の解決がそこにあるのかもしれないので、あながち否定もできない。

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