詳説 人工知能

2019年10月11日読了

やや異色の人工知能の解説。
人工知能といえば定義が曖昧でそれこそ研究者それぞれが自分の定義を持っていると言われている。
そういう中で、ディープラーニング(深層学習)という方法がグーグルのアルファ碁によってプロ棋士を打ち負かしたことから知名度を上げ、最近の人工知能研究は深層学習の研究であるかのように喧伝されていることに、著者は不満を持っている。

もともと人工知能研究には人間の頭脳を模して意味を表現し解釈することを「知能」と考えるシンボリズムと、多量のデータを用いて計算によってデータを「分類」するコネクショニズムという考え方があるらしい。すなわち、前者が知識ベースに基づきIF-THENルールなどを活用して答えを導くエキスパートシステムに代表され、後者が最近流行りの深層学習などに代表される。

この二つは本来パラレルに研究される応用されるべきだが、一部の学者によって前者が古い時代のものであり後者が最近のものであるというようなややうがった説明をしたことによって、日本の研究も世間的関心も深層学習に偏りつつあることを懸念している。

そのあたりのことを、アルファ碁の仕組みを通じて説明しようというのがこの本の面白いところでもあり、囲碁の奥行きのあるプロ棋士の知識がアルファ碁の中でどのように活きているか(著者に言わせれば、囲碁知識は低レベルでしかない)というところを解説し、本来ならば囲碁のようなゲームはディープラーニングだけで力任せに解くことも可能だが、知識ベースの活用の仕方をもっとたくさん織り込むべきだという。

確かにアルファ碁の対局は一回あたり電気代だけで百万円くらいかかるという話も聞いたことがあり、まさに計算機のパワーをフル活用した方法である。ただ人間(プロ)に勝ったからと言ってそれが学術的にどれだけすごいことなのかと問われると、それ自体は認めつつも技術の応用や効率性など改善余地は多くあるわけで、クルマができた時に人よりも速く走るからそれで研究は終わりであれば、電気自動車や無人走行などは在り得なかっただろう。

技術水準の評価は、その評価軸を何に置くのかによっても変わってくる。
アルファ碁の場合は、世間的にはあの難しい囲碁でプロ棋士にとうとう勝ったということで、深層学習を世間に広める広告塔の役割を果たすに十分であったし、そこにグーグルの戦略があったと著者は考えているようだ。しかし、人工知能研究という面ではまだまだ技術的に究明すべきことがたくさんあり、特に導かれた結果がなぜそうなのかを説明できない点は、アルファ碁に限らず弱点とされているところで、克服すべき課題なのだろう。

残念なことに著者は既に研究会からは退いた人であり、穿った目で見れば、本書は「深層学習ばかりやって、俺の研究を見捨てないでくれ」と訴えているようでもある。学者であれば、特に古老であれば自分の研究がどのような人に引き継がれていってどう発展しているのかを、もう少し丁寧に解説してほしかった。そうすれば、一時の流行り廃りではなく、深層学習の他にもこういった研究が進んでいるのだなとファンを増やすことが出来るし、私自身はエキスパートシステム自体の考え方は決して古いとも思っていないから。

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