知略の本質 戦史に学ぶ逆転と勝利

知略の本質 戦史に学ぶ逆転と勝利
野中 郁次郎 戸部 良一 河野 仁 麻田 雅文
日本経済新聞出版社

2020年3月11日読了

失敗の本質のシリーズの第四弾。
軍事戦略を通じて時のリーダーたちが状況をどう見極めて戦いを勝利に導いていったかを分析する。失敗の本質は日本軍の組織行動特性をノモンハン以降の日本軍の主戦を通じて「過去の成功体験への過剰適応」と断じた。

本書は、戦争を海外に向け、独ソ戦におけるスターリンとヒトラー、英独戦でのチャーチルとヒトラー、ベトナム戦におけるホー・チ・ミンとマクナマラ等指導部、そしてイラク戦(クエート戦から)におけるブッシュ政権を、戦局の進展を解説しながらそれぞれの指導者たちがどのように状況を捉え判断し国家を指導していったかを議論する内容である。

戦争を議論する際は事後になるため勝敗が分かっていることから、勝者の要因、敗者の原因分析に陥りがちだが、特にベトナム戦争やイラク戦争などは戦闘に勝つも戦略で負けるアメリカが活写されている点が、戦略の要諦をどこに求めるかという議論をうまく導いている。

野中先生によるまとめは最後の章にあるが、この中にある「共通善」が戦略としての成功の要否を決めている。それは絶対的なものでもなくまた一般的正解があるものでもなく、その時代の国家の状況や国民感情などに大きく影響される中で、指導者が感覚として捉えたことを如何に丁寧に言葉にして物語るかという能力があって初めて、「共通善」が表に出てくることになるようだ。それはアートでもある。

よき指導者が国民に依って選ばれるという過程以外に指導者が出てくることは、現下ではありえないことゆえ、国民が賢明になることが最も肝要であるとのメッセージは書かれていない。が、現状の政治状況を憂う記述からそれは伺える。

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