「決定的瞬間」の思考法

Joseph L. Badaracco(著)金井壽宏(監訳)福嶋俊造(訳)東洋経済新報社(2004年)

原題は、Defining Momentsである。翻訳ではこのタイトルの訳をどうするか随分悩んだと書いてあるが、結局
「決定的瞬間」に落ち着いたとある。自分だったら、「人生のそのときに」と訳す。訳もよくできており読みやすい。
また経営学書における難しいコンセプトや衒いはなく素直に読める。

テーマは、正しいことをやろうとするときに複数の価値観が対立するケースがよくあるが、その時の考え方について考えさせるものだ。
規則とか倫理基準などは役に立たないと書いてある。当然のことだ。

日本では昔から「忠ならんと欲すれば孝ならず。孝ならんと欲すれば忠ならず。」といい、
後白河法皇と父清盛のどちらを立てるか思い悩んだという平重盛の言葉があるが、まさにその状況を表現している。

本書はビジネス書として位置づけられているし、監訳者も経営学者である。しかし内容はビジネスシーンを例題として使っているものの、
いろいろな価値観の狭間にあるときにどうすれば「自分なりに納得できるか」というところを重視しているといえよう。

哲学者の思考などを引用しているところが、従来のビジネス書とは大きく異なり、特に終章はマルクス=アウレリウスの「自省録」
をしきりに引用し、沈思黙考する時間を設けることの必要性を説いているところが、従前のリーダシップ論とは異なる特徴であろう。

ただ、ビジネス書としてみれば新しい分野を切り開いたものともいえるが、一方で同様のテーマを扱ったものは日本の古典(漢文を含む)
に多く見られそうである。特に四書五経を読まずとも歴史書や伝記等で登場人物が何を悩み選択し行動し反省したかということを勉強することが、
結局は経営者の資質につながるとも思わせる一冊であった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


計算式を埋めてください * Time limit is exhausted. Please reload CAPTCHA.