畑村洋太郎(著)講談社現代新書(2007年)
著者は「失敗学」を提唱する工学者であり、本書は製造業者が2007年問題(つまり団塊世代の定年退職者が増えて、
技術の伝承がなされなくなるリスク)について、どのようにして貴重な技術を伝えていくかについてをテーマにしている。
但し製造業における技術に限定せず、「知識やシステムを使い、他の人と関係しながら全体をつくり上げていくやり方」と定義し、
人間同士の関係性を概念に入れていること(つまり単独で磨くのを技能と定義している)が特徴であり、
その考え方は理科系のみならず文科系でも適用されうるものである。
強調されているのは、「伝える」プロセスを必死に行なっても、
結果的に受ける側に伝わっていなければ伝えたことにならないという点である。伝えることではなく伝わることに焦点を当て、
「相手の頭の中に伝えたい内容を出来させること」と表現している。これは、
教科書的に客観的に教えることを是としている従来の考え方に対する警鐘であり、大いに主観を伝えることの大切さを説いている。
伝えられる側には「理解の壁」があり、それは物事を受け入れる素地がなければいくら一生懸命伝えようとしても伝わらない、逆に見れば、
相手を見て伝えることが必要と説く。
5つの要素として、1.まず体験させる、2.全体を見せる、3.やらせた結果を確認する、というプロセスを前提に、心構えとして、4.
全てを伝える必要はない、5.個はそれぞれ違うことを認めろ(相手を知れ)、と言っている。
個人の成長との関係では、出来上がった完成形を伝えようとしても伝わらないので、欲しいものがむしりとるようにすると、
伝わりやすいという。つまり、むしりとろうとする主体性と、むしりとりたいと思うような客体(=技術)の認知が必要だということである。
監査の現場であれこれと伝えようという努力はしてきたが、どうして理解されないだろうという疑問は、結局はそういった「客体」
を示しきれていないことだということを反省した。さて、自分にその技術はあるのだろうか?