林 紘一郎 (著), 田川 義博 (著) 中央公論社
(1994/03)
本書は絶版本で以前から読みたいと思っていたのだが、潜在意識の中で探しているものなのか、
いつもの近所の古書店で年末に立ち寄ったら偶々目に飛び込んできたので、直ぐに購入。普段見ている棚なので、
どなたかが売却されたものなのだろうか。
著者はいずれもNTTのOBであるが、本書は日本でインタネットが普及する前に書かれており、
議論は電話サービスを中心としたユニバーサルサービス概念の歴史的な変遷を主たるテーマとしつつ、
ネットワークの外部性やコスト計算の考え方などの難しさについてわかりやすく解説している。
ユニバーサルサービス概念の説明として、主に米国における、通信の持つ社会的役割(電信の時代、
電話が贅沢品の時代、独占事業体により運営された時代など)において、主に事業者側と規制当局の思惑の中で、
概念形成され変化していく過程がよくわかる。それは、「金持ち倶楽部」の時代、電報の受付のための電話の時代、
主に農村地域に小規模なローカルネットワークが作られた時代、長距離通信網と地域網との接続が問題になった時代、
などそれぞれの場合に応じて、「ユニバーサルサービス」という概念は変遷してきているようだ。
日本の電気通信事業においてどういう違いがあり、どういう問題があるのかという点については、
ほとんど書かれていないのは残念なところではあるが、著者の立場上、書けなかったのかもしれない。
面白かったのは、ノーム教授の「ネットワークの展開と変質」の理論(Noam, Eli M., A
Theory for the Instability of Public Telecommunications Systems,
in Cristiano Antonelli (ed.), the Economics of Information
Networks, North-Holland, 1992)である。これは公益事業が開始されて、独占されて、自由化されていく過程を、
ネットワーク外部性と長期平均費用との関係で研究したもので、第8章転機-規制緩和の潮流の「ネットワークの展開」の項に書かれている。
終章では、通信経済学がもっと研究されるべきであると主張されている。確かに、規制vs自由化、
規模の経済vsネットワーク経済、経済政策vs民間事業といった、いろいろな構造が含まれているのが通信事業の経済であり、
それ単独で研究する価値は十分あるだろう。その研究は、通信技術の持つ経済特性(利用者便益と供給者コスト構造)
を理解しなければならないので、幅広くかつ奥行きのある研究が必要な領域で、個人的には面白いと思っている。
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