「経験知」を伝える技術 ディープスマートの本質

Dorothy Leonard & Walter Swap著 池村千秋訳 (2005年6月第1刷)ランダムハウス講談社

通常、研修とか教育というのは伝えるべき「知識」を移転することを目的として行われるが、そこでの前提は文章に書かれている「形式知」であることが多い。一方、文章に書き表すことのできない暗黙知の移転というのは、俗にOJTといわれる手法でなければ「伝承」することは難しいとされる。自転車の乗り方や魚の釣り方は、感覚を体得しなければ、いくら口で言っても伝わるものではないし、言葉でわかっても体がその通りに動くわけではない。

本書が対象としているのは、この暗黙知のビジネスにおける重要さや、暗黙知を持った人の判断がいかにクリティカルなものであるか、またその暗黙知をいかに移転するかというテーマである。それを、野中のSECIモデルを参考に、知識の構築、形成、選別、移転について各フェーズで方法論やケースを議論している。

原題は、"How to cultivate and transfer enduring business wisdom"であり、暗黙知をenduring business wisdomと言い換えているところに、知が単なる知knowledgeではなく知恵wisdomになっているところがミソである。

第九章に著者の言いたい事はまとめられているので、そこだけでも読めばよい。中でも特に着目したいのは「固定観念と信念」について、「お互いの固定観念や信念について異を唱えあえるようにすること」や「創造的摩擦の価値」という言葉に表れているように、固定観念が個人の判断や組織の行動に制約を加えていることを問題視ししている。

あえて、他者との摩擦を通じて思い込みに気が付くような手段を組織内に取り込む努力をしなければ、人から人への知恵の移転は難しいということである。暗黙知は見えないだけにその移転の検証をすることができない。つまり「移転された」と認知できるということは、「できるようになった」「わかるようになった」ということに置き換えられるわけで、人を中心に各時代における社会認知と自己組織の状況認知と、両者のあり方のギャップに気がつき、それを埋めるということが必要な暗黙知の移転ということであり、目を外部に向けて新しいことを吸収する努力を継続して取り込んでいく仕組みが組織には必要なのである・・・って当たり前のことだけど、それができなくて崩壊に向かう組織は多い。

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