関厚夫(著)文春新書(2007年)
新書とはいえ通常の3倍近く470ページもある厚さ。著者は産経新聞社編集員。
松陰の生い立ちを、その遺された言葉を掲げてそれにまつわるエピソードや著者の考えをエッセイとしてまとめたもの。春夏秋冬プラス
「春、再び」の5章立てで構成されている。
松陰は「人に四時(四季)あり」とその人生観を晩年残している。30年の寿命にもその中に四季があるという。
その考えを著者は章立てに表して編集した。
引用されている言葉は抹香臭い精神論ではない。
松陰の残した書物だけでなく手紙や弟子たちの記録などいろいろなところから丁寧に引用されている。特に松下村塾での議論が過激を極め、
再び野山獄に投獄された頃からの松陰の心の変化の機微は短文の中でも丁寧に描写されている。
囚われの身でありながら弟子たちに行動を期待しつつ、期待を裏切られて絶交を申し渡し、それでもなお弟子、
藩の重臣そして家族たちが愛して止まない松陰がよく分かる。
著者はあとがきで「いまをいかに生きるか」というテーマを考えたかったと記している。
人は皆それぞれの時代に生きているがその時代がどういう時代だったかをわかるのはその時代が歴史になってからである。
吉田松陰という人物を幕末維新で活躍した人材を育成したという捉え方は歴史的な解釈である。
しかし現実に生きている人には一分一秒の後に何が起こるかわからないという不安をあえて凝視せずに日々過ごしている。
それを学問によってあえて未来を見つめ、
不安と理想を描きながらも世間の理想とのギャップを自分で何とかしなければならないという気持ちで常に自らを鼓舞していた人間松陰を楽しめる一冊だ。