ドーナツを穴だけ残して食べる方法

2019年9月25日読了

あの穴の空いたドーナツという菓子を、穴だけ残して食べる方法について、いろいろな考え方を示しながら、学問としての知的問いかけととことん突き詰める姿勢を示す。

ドーナツの穴のアナロジーは、ビジネスとリスクの関係にも使えるので、たまに使うのだが、本書はそこにずばりと切り込んだタイトルなので、買ってみた。

工学、数学、哲学、美学、法学といろいろな分野の学者が学生からの依頼に基づいてその方法を論じている。さしずめシラバス代わりに自分の研究内容が如何に面白くドーナツの穴を通じて伝えることが出来るかという、学者としての力を表象してしまった感がある。見方を変えれば、講義の中で一つでもこのような話が交えてあれば、タイプが異なる学生が集まってくるのではなかろうか。

関心を惹かれたのは数学者の、「新たな次元を加える」という考え方で、ちょうど多変量解析を勉強していて次元という概念がわかりにくかったところだったので、理解が深まった。右手と左手でそれぞれ親指と人差し指で輪を作り、お互いの輪がお互いの中を通っている状態(鎖状)にする。片方をドーナツ、他方を穴と喩えれば、三次元に一つ次元を加えて四次元にしてやれば、2つの穴は輪を解くことなく分離できる。よってドーナツ側を食べてしまえば残る方の輪が穴を表すという、狐に花を摘まれたような論理だが、数学の次元の考え方がいかにわかりにくく、またそれがわかれば世界が広がることを説いていて、学生を集めるにはいい手段になったのではないか。

また行動経済学という領域もドーナツとどう関わるのかと思いきや、「法の穴」と交えて論じている。これは冒頭に書いたビジネスリスクと類似した論理構成である。

私が研修等で用いていたドーナツ穴のアナロジーは、ビジネスリスクである。ビジネス自体は具体的なドーナツの本体部分つまり本体。それがあるからその裏腹としてリスクがあるのであって、本体なければリスクはない。地震だってビジネスリスクではないかという反論があるが、それとてビジネスをしていなければリスクにはならず、社会への影響にすぎない。リスクはインシデントではない。

ちなみに自分自身が考えていた穴の残し方は、まず穴の空いていないドーナツ(もどき)を用意して穴の部分をくり抜いて食べるという方法。これで穴を残してドーナツを食べたことにならないか。しかしこの案は法学者が提唱していた。大抵の思いつきは、どこかで他者が発見していて、自分はそれを知らないだけなのだ。

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