創出の航跡—-日露海戦の研究

吉田 恵吾 (著) 本田技研工業共創フォーラム(発行)すずさわ書店 (2000/04)

著者は、あの自動車製造会社ホンダの人で、本田技研工業株式会社総務法規部共創フォーラムという組織(?)
で創造性に関する研究を行なっているらしい。日露戦争の日本海海戦とホンダとがいったいどういう関係かと不思議に思うが、
それを繋ぐのがタイトルの「創出」という概念である。創出とは、「旧来の延長線上での改良というレベルではなく、考え方、
コンセプトの変更を伴う創出----新しい概念を作り出すこと」と定義されている。

本書は色々と得るところが大きいが、まずは日本がロシアのバルチック艦隊を破った日本海海戦における有名な丁字戦法について、
戦艦の配置などを含めてかなり詳細に紹介されている。むしろ、それを題材にしてどうしてそのような戦艦の動きを選択するに至ったか、
その前哨戦とも位置づけられる黄海海戦での「失敗」がどのように教訓として活かされたかというあたりを根底のテーマとして記述されている。
日本海海戦における諸作戦は、黄海海戦で想定していたことが旨く行かずに、結果的に敵艦を旅順港に帰港させ、
あの二○三高地の大激戦を招いてしまったという反省と、もたもたしているとバルチック艦隊が来てしまうという危機感から、
海軍が真剣に考えたところから生まれたものであるが、その過程を詳細にしかも物語風に面白く読めるので、ぐいぐいと引き込まれてしまう。

本書の最終的な目的は日本海海戦における軍事組織の「創出」から、一般化した創出のパターンを導出することである。
本書に拠れば創出には三種類の型がある。

一つは、過去の失敗や藩政を踏まえて、
今までのコンセプトを前提として合理的な判断や因果関係を捉えて新しい活動をしていくことである。これは改善活動と重なるであろう。通常、
我々の考える改善は、「こうすれば、ああなる」という因果関係を事前に捉えた上で対策を練っていくことが多い。

しかし、二番目の創出のパターンは、現状における使命感とか全体性を捉えたところで、自己否定や現状否定を行い、新しい技術、価値観、
コンセプトを生み出すことである。

そして三番目の創出のパターンは、夢とか希望とかいった現状とは無関係のところから考え、出会いとか、縁とか、
ひらめきといったところで、全く新しい何かを生み出すことである。(257ページ図17)

この3つのパターンは教科書的という批判は可能だが、他方、我々が日常的なビジネス活動の中で、いろいろな問題に「対処」するときに、
いったいどのメルクマールで思考しているかをベンチマークするのには非常に都合がよい。多分、ほとんど全てが1番目の「改善」
のパターンであろう。

こういう組織を持って研究させるところにホンダの強さがあると思える内容であった。

「創造の根底には自己の境界を乗り越えるための自己否定がある」「創造とは、
自己が自己の境界を越えて新しい自己の境界を創出することである」という言葉が引用されているが、なかなかこの領域に達することは難しい。
企業が常に念頭に置くべき考え方の一つであろう。

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