海洋国家日本の構想


久しぶりの高坂正堯である。
高校生の頃は「正論」という月刊誌をよく読んでいたので、その中では何がしかの論文が毎号掲載されていたものだが、その後、上京して「世界地図の中で考える」以来、ご無沙汰していた。
昨年に「宰相吉田茂」を読んで久しぶりにその筆致に触れたが、本棚の隣にあったこの本は、その続編とも言えるものである。
あとがきには1965年とか1969年といった日付が入っているので、論文自体はそれ以前に書かれたものである。内容には、池田首相とか安保選挙の結果といった表現が出てくるので、時代は推して知るべしだ。
時代は、日本が戦争の荒廃から復興してオリンピックを開催できるようになった頃、また日米安全保障条約の改正や中国共産党の核実験などがあった頃である。
当時の日本は、安保反対・非武装中立という意見と、自衛隊を軍隊として軍事力を強化・核武装もという両極端な意見の間で、米国の核の傘の下での経済復興優先という政治的妥協点が見出されていた。
高坂の視点は、日本が非武装化することは東アジアにおけるミリタリーバランスを壊し特に朝鮮半島や台湾が不安定になること、たとえ非武装化して自ら侵略意思がないことを表明しても他国が同様に考えるわけではないこと、また核兵器はその威力ゆえに使えない兵器となっており中国の核実験は恐怖ではないこと、核兵器が使えないがゆえに通常兵器が必要であることを主張している。
そういう中で、第七艦隊が日本に駐留していることの意義は、東アジア(日本を「極西」と称している)における軍事バランスを確保する上で非常に重要な位置づけを持っており、この傘がなくなったときに日本は「海洋国家」としてどう生きるかを選択しなければならなくなるという。
海洋の安全保障は日本にとって最重要課題であるが、安全保障自体は消極的問題であって、むしろ日本が今後どのような国になるかを考える時期であるとする。オリンピックによって日本は経済復興を果たし、当面の政策目標は達成しえた。その後、国家としての目的を樹立することは、政治の行方を決めるうえで非常に重要な課題なのだが、平成の御世になった今、その意味が分かってきている。経済大国日本は、企業にたとえれば売上高トップの大企業だが「何をやっている会社なの」と尋ねられるような国になっている。
高坂はその中で、低開発国への援助を地域的に展開させていくことを提唱し、狭い日本の国土で農業や土木産業などを無理に発展させることよりも、低開発国を援助して貿易によって国家を発展させるほうに注力すべきであると言っている。そのための海洋防衛であり海洋国家構想ということである。

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