生物と無生物のあいだ

福岡伸一(著)講談社現代新書(2007年)
書評にもあったが、難しいことをどこまで分かりやすく解説するかは、物事の本質をわかっていなければできないという。著者は、分子生物学の専門家であり、生き物を生き物たらしめるものは何かということを研究課題として取組んでいる。
「生命とは自己複製を行なうシステムである」ということが分子生物学のテーゼらしいが、DNAの研究過程を綴りながら、生命体の身体は「動的な平衡状態」を保ったダイナミックな流れの中にあり、パーツの組合せではないというあたりが本書の主題となっている。
内容は、野口英世博士の研究は日本と違って欧米では評価されていない話から始まり、見えないウィルスの話から入って、ES細胞や狂牛病プリオンなども触れており、いかに見えないものを見えるものとして説明するかに学者が腐心しているかなど、興味深く読める。
特に最終章の記述では、ある特定のたんぱく質を欠落させた状態の生物を誕生させると、何かが欠けた生物ができあがるかもしれないという実験の話が出ているが、結果的には何も変化なしということのようだ。つまり「生命とは何か」ということがまだまだ分子生物学の世界でも解明できていないということが結論として綴られているところには、なんだか「ほっとする」安心感がある。


筆者は実に文章が旨い。それは本文の面白さに現れているが、むしろ「エピローグ」に記載された少年時代の生活環境に対する思い出が綴られた部分だろう。生物や生命にのめりこんでいった情景や心の動きといった原風景がありありとよみがえってくるような文章である。

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