公認会計士vs.特捜検察

細野祐二(著)日経BP(2007)

著者は、粉飾決算と特別背任が絡む「キャッツ事件」と呼ばれる事件の被告で公認会計士である。
事件の発生の背景から検察による任意取調べ、逮捕、供述調書の偽装、一審判決、控訴審判決までが、かなり詳細に綴られている。
430ページもある内容だが、引き込まれるように一気に読んだ。

我々は被告が有罪か無罪かを「公正な」裁判で争う(争える)ものと考えている。しかし、
その前提としては裁判官が証拠をいかに客観的に採用するか否かに関わっているのだということをひしひしと感じさせる。
裁判官が証拠の採用において検察の自白調書に著しく依存すると、検察側もそれをよいことに自白調書の捏造がまかり通る。
私はこの本を読んで寒気を覚えた。

裁判がこういう方法で進むなら誰でも有罪にされてしまうのではないか。著者は当然に無罪を主張しているが、
それ以上に裁判の方法自体に大きな問題があるといわざるを得ない内容である。
自白調書はあらかじめ検察が用意した調書に、たとえ内容が自白と異なっていても署名を強要させられる。しかも、「署名しなければここ
(取調室)から出られなくなるぞ・・・」といった脅しつきで。検察側証人尋問は、あらかじめ検察が用意した「模範答弁」
を何度も練習させられる。それも数回ではない。証人により40-60回とある。

一旦、逮捕起訴されると、有罪率は99.9%だそうである。つまり、起訴=有罪なのである。そうなると、
弁護士は無罪を勝ち取ることではなく有罪を前提に執行猶予を狙う(端から負け犬根性である)。検察は上記の通り。
裁判官は自白調書偏重で証拠を自ら積上げて判断しない。これが「三法一両損」の日本の司法らしい。被告人が一方的に損である。

不思議だったのは会社の会計処理が虚偽記載かどうかが争点の一つであるにもかかわらず、
一審の証拠として会計専門家の意見が取り上げられていないし、意見照会すらされていない節がある。
たとえば医療事故があった場合には医者の意見というのが必ず裁判で取り上げられるはずだ。

再来年から刑事事件に裁判員制度が導入される。真面目に仕事をする者がバカを見るような世の中にだけはなってほしくない。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

CAPTCHA


計算式を埋めてください * Time limit is exhausted. Please reload CAPTCHA.