棋士とAI――アルファ碁から始まった未来

棋士とAI――アルファ碁から始まった未来 (岩波新書)
王銘〓(おう めいえん)
岩波書店

2018年3月8日読了
著者の王メイエンは台湾出身のプロ棋士の中でも、特にアルファ碁の開発に対するサポートをしているだけあってかなり詳しそう。昨年2017年3月のUEC杯では、たまたま近所のマックでコーヒーを飲んでいたら、隣のテーブルに座ってスタッフと話をされていたのでびっくり。
対戦もすぐ目の前に座られていて熱心に観戦している姿を見たし、台湾テレビ局のインタビュを収録する場面でも(何を言っているのかわからなかったが)熱のこもった話し方をされていたので、他の棋士よりはアルファ碁に対する思いが強そうだとわかる。

この2年間のディープラーニングを使った囲碁の変遷はとても速い。
李セドルをアルファ碁が破ったのは2016年3月だったが、その僅か一年半過ぎたあたりで、教師なし学習(つまり自己対戦で学習していく)アルファ碁ゼロが登場し、アルファ碁に勝利してしまう(3子程度強いらしい)。

その間にいろいろあったことを含めてプロ棋士とアルファ碁とのかかわりを題材にして、職業人と人工知能のかかわりについて論じた内容で、一時期もてはやされた「アルファ碁絶賛」という内容とは一線を画している。
アルファ碁は、打ち手を選択するポリシーネットワークと盤面の優劣を評価するバリューネットワーク、そして多様な変化を想定するモンテカルロシミュレーションで構成されているが、そこには「人としての打ち方」とか打ち手に込めた思いというものはまったくなく、計算結果として着手を決めているに過ぎない。対してプロ棋士は戦いのストーリをもって手を打っているので、意思がそこに現れる(あたかもアルファ碁が意思を持っているかのように見えるのは人間が勝手にそう解釈しているに過ぎない)。
著者は、人間と人工知能の関わりの先行的な事例としてプロ棋士とアルファ碁との対戦を位置づけていると言える。

DeepMind社の論文が不完全であり、科学論文としての再現性を備えていないことから、一部の開発者が人工知能の知見を独占することに対する警鐘を鳴らす。また、アルファ碁が打つ手の意味はアルファ碁は持っておらず、むしろ人間側の受け止め方の問題であることも著者なりの観点で踏み込んでいて、プロとしてもいろいろと悩んでいるのだろうなということを彷彿させる。

李セドルとアルファ碁との対局で唯一セドルが勝利した碁は「ワリコミ」でアルファ碁が乱れてしまったということがしばらく言われていたが、著者によってセドル自身も深く読んでいたわけではなく、まして「神の一手」でもないこと、またアルファ碁が受け間違えをして局面を悪くしていたことがさらっと解説されていて、囲碁がわかる人にとっては興味をそそられる内容となっている。

囲碁を少しは嗜み人工知能に関心があるという人であれば必読だろう。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

CAPTCHA


計算式を埋めてください * Time limit is exhausted. Please reload CAPTCHA.