平成29年7月8日読了
著者は3月のUEC杯(電気通信大学囲碁ソフト大会)で会場で観戦されていたが、実はその前にマックで隣の席で珈琲を飲んでいた。
この本は、そのプロ棋士王銘エンさんによる、アルファ碁やディープゼンなどのコンピュータ囲碁ソフトの対局解説で、UEC杯直前に出版されたものだ。
対局解説自体楽しめるし、コンピュータが示す妙手や、逆に素人っぽい手などが散りばめられていて、コンピュータの強さがわかるように解説されている。
しかし最も読めるのは、後半部分。
「私とコンピュータ囲碁」「囲碁とAIの将来」の部分は、囲碁に対する棋士としての姿勢や思いが述べられている。
そして、最もプロらしさを感じたのが、仕事を完成度と共感度のマトリクスで説明する次の行。
本当の神の一手はコンピュータの「完全解析」で、そこにあるものはやることが何もない「無」しかありません。そうなりますと、完成度軸はただ上を目指すものではなく、共感軸を伸ばす「仕掛け」であるという見方もできるのではないでしょうか。
また、そう考えることによって人間にとって完成度軸の数値しか持たない「AIの仕事」をはっきり「道具」として使うことができるようになります。共感は最初から与えられるものではなく意識して育てるものになりました。(p204)
自らがプロである意義を考えつつAIからも逃げることなく研究し、新しいプロ棋士の像を追求しようとする姿勢こそ、まさにプロを感じる。