臨床とことば

臨床とことば (朝日文庫)
河合 隼雄 鷲田 清一
朝日新聞出版


著者は双方とも高名ゆえ説明するまでもなかろう。
臨床心理学者である河合と臨床哲学という領域を拓いた鷲田の対談を本にしたものである。
カウンセリングの経験を通じた言葉の微妙なやり取りの面白さ、それを人間の距離感覚と言っているのだが、科学としての医学のアプローチの方法(人間を対象から切り離す)と実際から考える臨床的アプローチ(人間と対象との関係の存在を前提)の違いがテーマになっている。
対談の記録なので言葉はやさしく表現されており、ふむふむと思いながら読み進むのだが、いざこうしてまとめてみようとすると、さて何が書いてあったのか言葉にすることができない。
そういうテーマを対談できる二人の話である。
この「臨床」というテーマは経営学で言うところの「現場・現物・現実」から考えようということと共通項があるように思えるのだ。実際を見聞きして普遍性を見出す、その際の言語化の難しさなどは、経営者が感じ取る組織に対する感性をいかに言葉に表現して働く人たちに伝えることができるか、これが患者と接する際の対応の仕方を言葉にすることの難しさに通ずるものがあろう。
そういう意味ではケースバイケースで判断しなければならない事象に対して普遍的に説明しようとする科学の態度の限界があるのかもしれないが、一方で臨床知のようなものがあるのも二人は分かっているのであり、両者を繋ぐところの面白さが本書にはある。

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