東京の自然史


東京の自然史というタイトルから想像されるのは、植生の変遷のようだが、実際は東京を中心とする関東地域の地形の変遷を取り扱う。特に関東ロームによって構成されている武蔵野台地に関する記述が多い。
関東平野がどのように形成されていったかは、数百万年前から現代に至るまでの地層の構造や同一地層の場所の違いによる深さなどを図を用いた説明で、大地が生きているかのように読めるのは、著者が大学の講義の教科書として本書を上梓したこともあろう。
下町の零メートル地帯が実は地盤沈下によって形成され、その原因が明治以降の地下水の汲み上げによるものであることや、縄文時代の貝塚の発掘現場をつなぎ合わせると当時の海岸線が見えてくるが、それが荒川上流の川越あたりまであるところなど、新たな知識を得た。
災害を心配する向きには、本書を手にしてどういう所に住めばよいかのヒントを得ることができる。たとえば武蔵野台地は地盤としては比較的安定しており関東大震災時の倒壊家屋被害も少なかったようだが、それは当時の話であって、その後のスプロール現象により、新たに軟弱地盤の上に家屋を建てているケースは「宙水」という地下に溜まっている水の存在に注意が必要だ。昔は沼地であったり、低地であったりした場所で、家屋がなかったところである。

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