死なないでいる理由


死なないでいる理由 (角川文庫)
鷲田 清一
角川学芸出版


「人はいずれ死ぬと分かっていてなぜ生き続けられるのか」という根源的な問いは言葉を換えて色々なところで見聞する。子供が「どうして勉強しなければならないのか」というのも、「生きる上で役に立ちそうもない知識がどうして必要なのか」、という問いかけであるし、会社で「おれはどうしてこんなに苦労しなければならないのか」というのも元は同じではないか。
人は他者との関わり合いで初めて人となるというのが著者の哲学の根にはある。すなわち「わたしの命」という考え方を必ずしも認めない。わたしが対象としてとらえている命は他者から認知されたわたしがいるから初めてそこに命を見出すことができる。
「わたしの命、わたしの体、わたしの自由にしていいでしょう」という問いかけ自体が、他者との関わり(邪魔という感覚?)で問われるものであろう。いざ、自由な身になったときに、さて人間はどうなるのだろうか。老人の孤独死や、飽食国家での子供の栄養失調死(ネグレクト)などの事件を見聞するたびに、おのずとその答えが出ているような気がしてならないのだが。

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