共喰い

共喰い (集英社文庫)
共喰い (集英社文庫)

posted with amazlet at 13.03.17
田中 慎弥
集英社 (2013-01-18)


芥川賞受賞作。
とはいえ、もともと文学作品は全く読まない自分が本書を手に取ったのは、著者が下関出身であることを偶然に知ったことや、これまた偶然に通勤電車で隣の人が読んでいたページに山口弁の会話が載っていたことで、読んでみようという気になった。
実父が女と交わる際に暴力的になるという情景を知る主人公が、自分の中にも同じ血が流れていることを知るということを中心的なテーマとしている作品として、カバーには紹介されている。
しかし同作品と一緒に掲載されている「第三紀層の魚」と併せて読むと、むしろ別の読み方をしてしまう。
下関という地域が幕末史の中心地のひとつとなり、明治の頃には大陸との交流の先端都市として英国領事館を有し、横浜に次いで外国為替銀行が設置されるという形で発展したものの、大東亜戦争以降は産業の中心が石炭や化学工業に移っていき、町全体がゆったりと寂れていった情景を知る身としては、その地域における歴史的な流れの一コマとして二つの作品が切り取れる。
「共食い」も「第三紀層の魚」もともに高校生が主人公となっているが、前者は実父と住む主人公の母親は離婚して近所に住み、後者では母親は父と死別し炭鉱で栄える九州に職を得て、祖父の死をきっかけに東京に出て仕事を見つけるチャンスを得る。
小説とはいえその情景は、おそらく著者が過ごした場所の描写であり、下関とほど近い宇部でほぼ同じ時期を過ごした自分のもっている情景とそっくりである。著者の描こうとする心象風景は、もしかすると来たるべき日本の衰退を先取りしたものではないか。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

CAPTCHA


計算式を埋めてください * Time limit is exhausted. Please reload CAPTCHA.