「鉄学」概論


本書のタイトルは西田幾多郎をもじったものだが、著者は歴史書でよく見る名前の通り、副題にあるように、明治以降の日本の経済の原動力となった鉄道の発展を当時の世相と絡めての論考である。元はNHKの教養番組で放送された内容を改編したものらしい。
鉄道と文学者の関係、天皇行幸、高度成長と私鉄沿線(特に著者が幼少期を過ごした西武鉄道)、遵法闘争に対する乗客の反乱など、鉄道に纏わる挿話が歴史学者なりの視点で記述される。
最も興味深く読めたのは、「西の阪急・東の東急」の章あるいは西武鉄道の項での、それぞれの創業者である小林、五島、堤の鉄道に対する考え方の違いが、その後の鉄道と沿線の発展に影響していき今の姿を作っているというあたりの分析は、一沿線に住む者として思うところがあり、興味を注がれた。
ひた隠してはいるが、著者は「鉄ちゃん」の一人であることが何となく垣間見ることができ、歴史好きには鉄道の、鉄道好きには歴史的観点から楽しめる一冊であろう。

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