モンティ・ホール問題


モンティホールとは米国の人気クイズ番組の司会者の名前で、そのクイズ番組のとある出来事が学者などを巻き込む大論争になったことから、総称してモンティホール問題と呼ばれるようになった。その問題とは、

1.クイズ番組のその日の優勝者が、最後にくじで賞品の車を当てる。
2.くじの方法は簡単で、3つのドアのうちの一つを開けると賞品の車が入っており、他の2つを開けるとハズレのヤギがいる。
3.回答者は、3つのドアのうちの一つを選ぶ(まだ開けない)が、モンティが他の2つから一つを選んで開けると、ハズレのヤギが出る。
4.その後、モンティは回答者に「選択を変更しますか?」と尋ねる。

さて、このとき回答者は選択を変更すべきか?

当初に回答者が選んだドアが正解である確率は他のドアと同様に三分の一であることは誰もが同意するだろう。
つまり、この問題はモンティがハズレのドアを開けた時に、回答者の選んだドアが正解である確率をどう考えるのかということになる。

考え方1

モンティがハズレのドアを開けた瞬間に、残りのドアが正解である確率はそれぞれ二分の一に変わる。したがってどちらを選んでも、結局当たる確率は変わらないため、回答者は己を信じてドアを変えなくても良いし、またあえて変えてもよい。

考え方2

回答者が選んだドア群と、回答者が選ばなかったドア群という集合で考えた場合、アタリの確率はそれぞれの群について、三分の一と三分の二になる。
選ばなかったドアのうちの一つが外れであることがわかったので、もう一つのドアがアタリである確率は、三分の二になる。
したがって、回答者はドアを変えるべき。

どちらの考え方も正しそうに見える。考え方1からすれば考え方2に対しては、次のように反論するだろう。

結局、回答者が開けることができるドアは1つしかないが、モンティがハズレのドアを開ける前後に、群ごとの当選確率が変化しないというのはおかしいだろう。たとえ自分の選んだドアと、モンティが選ばなかった最後の1つとが残っていたとしても、自分が選んだドアが当選している確率も高くなっているはずだ。

他方、考え方2からすれば考え方1への反論は次のように推し量られる。

モンティは司会者だから正解のドアを知っている。だから意図的に正解のドアを避けてハズレのドアをあけるはずだ。すなわち、回答者が選ばなかったドア群でモンティが開けなかったドアが正解である確率はなにもしない時に比べて高くなっている。

自分は1を選んだ。そして2の考え方には釈然としないものがあり、モヤモヤとしていたところに、この本を偶々書店で見つけたので、渡りに船と買ってしまったのだ。

この問題は数学的に説明するには実に曖昧な要素がある。すなわち、司会者のモンティが当選ドアを知っているかどうかが、条件として与えられていない。したがって、司会者だから当選ドアはモンティが知っており番組を盛り上げるために最後まで賞品の入っているドアは開けないという推定を働かせている人と、問題を素直に受け止めてモンティがランダムにドアを選んで開けたらたまたまヤギがいたと考えるかの違いが、回答の選択に大きく影響している。

考え方2はベイズの公式で知られる条件付き確率という理論で説明が可能だ。つまり、「ある条件があったという下である事象が起こる確率」を考える理論だ。

この問題はベイズの理論の解説書では必ず最初に引用されるようで、自分もベイズの本を読んだ際にこの問題を知ったのだった。しかし、結果から言えばそれがベイズ公式の理解に大きな阻害になっていた。ベイズの理論で説明はできるのだが、それはモンティホール問題の本質ではなく、説明者がベイズ理論を説明する例の一つとしてモンティホールのケースを使って説明しているに過ぎない。

しかし、本書が示唆しているのはモンティホール問題の捉え方、ひいてはある事象を解釈するときの前提条件を明確にすることの大切さである。

問題文では、司会者のモンティが正解のドアを知っているのか知らないのかという点は明らかにされていない。考え方1を選んだ人は、モンティが開けるドアを選択するのは正解を知らずにランダムに開けると考えており、考え方2を選んだ人は、モンティは予め正解を知っており、必ずヤギのいるドアを開けるという推定をおいている。

数学的解釈をするにあたって、仮定はあったとしても推定はあってはならないはずだ。モンティホール「論争」はまさにここが核心であって、はじめから数学的公式で答えが決まっているのではなく、与件を巡っての議論だったのだ。

本書で紹介されている日本人の論文がある。それによれば、問題を解く際に人が出発点で抱く「推論」として次のようなものがあるという。

  • 「場合の数」の定理  ありうる選択肢の数がNのとき、それぞれの選択肢の確率は1/Nである。
  • 「等比率」の定理  一つの選択肢が除外されても、残った選択肢の確率同士の比は事前確率の比率と同じである。
  • 「無関係故に不変」の定理  選択肢のうち一つが除外されることが確実な場合、どの選択肢が除外されるかを特定する情報が与えられても、その一部以外の選択肢の確率は不変。
  • 事前確率を修正するために関連する因子すべてを適切に評価するための数学の訓練を受けていない人々は、直感的にわかるし使える場合も多い一定の経験則に寄りかかる(いま与えられている問題に当てはまらなくても)

    という指摘は、頭に残していたい。

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