日本の財政

日本の財政 (中公新書)
日本の財政 (中公新書)

posted with amazlet at 14.02.23
田中 秀明
中央公論新社


著者は、大蔵省官僚から学究分野に入り現在は大学教授として日本の財政問題について研究している。

日本の財政問題はいくつか核となる問題がある。
1.人口減少による経済規模の縮小
2.生産人口減少と高齢者割合の増加による社会福祉負担の急増
3.国債発行による赤字財政の継続と残高の急増
などだ。

著者の研究は、日本の財政そのものの議論よりも財政策定プロセスが持つ機構的な問題についての論述である。
その問題とは、財政規律を維持するインセンティブが、政治にも官僚にも国民にも働かない構造である。

第一章、第二章でバブル経済崩壊以降の財政赤字の歴史を俯瞰し、日本の財政赤字の問題を政治家と制度という側面から検討する。第三章では先進諸国の財政健全化の取組例を紹介する。次いで第四章第五章で、日本の財政で特に重要な予算編成にかかる「病理」を紐解き、政治と官僚の関係、財務省の役割、官僚人事という機構が持つ問題点に至る。

この着眼は、国家にかぎらず組織運営全般に参考になるもので、第四章の「問題の整理」にあらわれており引用しておく。

マクロ面
財政ルールを遵守させるためのコミットメントが弱い。政治家に財政規律を維持しようとするインセンティブは働かない(端的には票に繋がらない)
赤字ルール
支出ルール
中期財政枠組み
透明性
意思決定システム

ミクロ面
予算を効率的・効果的に使うことへのインセンティブがなく、一旦予算が決まればその「執行」に焦点が置かれる。各省庁に財務会計責任を負った者がいないため、accountabilityがない。

以下の様な改善策を提案する。

1.財政責任法を制定し、コミットメントを高めるための制度的な枠組みを作る。
中期財政枠組みに基づく予算編成
会計基準を明確にし決算を透明化する
2.財務会計責任を明確化し、各省庁の大臣に会計責任を負わせる。監査制度も導入する。
3.内閣に最終的な予算責任を負わせ、権限を内閣に集中するとともに、財政責任のない族議員の発言権を排除

本書では選挙民たる国民の視点が触れられていない。所詮、今の政治や統治構造は日本国民の選択の結果であるという冷徹な事実を抜きにしては、財政問題は議論できないはずだ。そういう意味では、本書のような研究がさらに国民の広く知るところになって、財政問題に対する厳しい視線が具体的な国民生活の問題として理解されることが最も重要なプロセスではないか。著者のような研究で財政問題の視点と議論が深まり、日本再生に向かうことを期待する。

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