炭山の王国 渡辺祐策とその時代

堀雅昭(著)宇部日報社(2007年)
地方紙「宇部日報」に連載された、宇部海底炭田を中心とした産業史でもあり、明治維新以降の宇部市の歴史でもあり、その中心人物の一人でもあった渡辺祐策の列伝でもある。


一地方都市宇部が小さな漁村(緑が浜と呼ばれていた藩政時代)から石炭が見つかり産業として定着し化学工業の宇部興産に変わるまでのひとつの歴史に関わった人物として、祐策の名前は地元民なら「渡辺翁記念会館」(通称、記念館とか市民館と呼ばれ、文化財指定も受けている建物)にある大きな立像を通じて知られている。
それは、地域の歴史として地元小学校の社会の時間にも教わるし、宇部興産関係者なら会社の歴史を紐解けば祐策に行き着くに違いない。
しかし、それ以上のことは何も知らないことを本書を読んで思い知らされる。郷土にそういった偉人がいたという以上に、どういう人だったのか、周囲の人とどういうかかわりを持っていたのかということはまったく知らなかったといってよい。また、JR宇部線、小野田線、中国電力、図書館、学校、母校宇部高校、神原公園、常盤公園などの社会インフラがどのように歴史の中で作られ発展していき、そこに祐策翁がどのように(ほとんど)絡んでいたかを本書を読んであらためて思い起こすことになった。
郷土の歴史家によって書かれ、郷土の地方紙に掲載された内容だけに、「いいこと」しか書いていないのかもしれないが、そういった贔屓目を抜きにしても、事業を興して地域に貢献し、事業の利益で地域に貢献し、自らの判断をすることで地域を引っ張っていくことで貢献する人物として、全国的に有名な人ではないのかもしれないが、そういう人物に書物を通じて出会えることがこれほど気分を高揚させるとは思わなかった。
あらためて郷土史を勉強するにいい機会であった。
かつて北海道に仕事で行ったときに、「同じ炭鉱で栄えた町なのに、宇部は発展し、夕張は衰退したのは、なぜか」という質問を投げかけられたことがある。本書を知っていれば紹介したかも知れない。

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