天皇の戦争責任

加藤 典洋 、竹田 青嗣、橋爪 大三郎 (著) 径書房 (2000年)
天皇の戦争責任
もちろん昭和天皇である。
本書は、ゴーマニズムの橋爪と文学者である加藤との対談を中心として記述されており、哲学者であり在日コリアンの竹田が両者の間に立って議論の行方を整理するという、面白い形式をとっている。


本書は大東亜戦争についての「昭和天皇の戦争責任」をテーマとしつつ、「責任の有無」の二元論に議論が終始し、それ以上の思想的進展がないことを本来のテーマとし、日本人は斯様な思考を自ら克服しない限りは諸国家と対等に渡り合うことができないという危惧を呈している。これを、冒頭、竹田が「思想の敗北」と称している。
第一部「戦争責任」においては、そもそも戦争責任とは何かという議論が進められ、「天皇」という「地位」に対する見方や、その正統性に対する法的根拠などについて議論が交わされる。橋爪は、明治憲法の法律構成と、人間としての天皇が「天皇という地位」を選択し得ない立場にあることなどを理由に、責任を問うという発想そのものが誤っているとする。
第二部「昭和天皇の実像」においては、昭和天皇の生い立ちから在位中の各事件において昭和天皇が採った態度などについて議論が交わされる。特に、後世の価値観や「庶民感覚」にもとづいてこうすべきであったという議論を排除し、当時の天皇がおかれていた状況を踏まえてその行動がいかなるものであったかという姿勢で議論が貫かれる。
第三部「敗戦の思想」では、「侵略」という行為について当時の国際法的文脈で捉えた場合に、台湾割譲、半島支配、満州、中国、東南アジア、それぞれの時代で、国際法的な立場からは全て意味づけが異なっていることを確認する。
対談とはいえ脚注も充実しており、十分に学術書としても機能しうる。

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