組織は合理的に失敗する

組織は合理的に失敗する(日経ビジネス人文庫)
菊澤 研宗
日本経済新聞出版社


あの「失敗の本質」に追いつかんと意気込んだ労作である。つまり日本軍の組織的失敗の原因を分析しようという点で、共通項があるが、それを最近の経済理論「所有権理論」「エージェンシー理論」などを使って説明しようとしているところに新規性がある。
著者は、日本軍の失敗を「非合理的判断」として非難するのは、人間を完全合理的な行動をとることができるという見地に立っているので、本来、限定的合理性に基づき行動する人間の前提が異なっているという。
著者によると、ガダルカナルもインパールもそれぞれ限定的合理性に基づき、各人が行動したために、結果として悲劇を生んだとする。
他方、ジャワ軍政や硫黄島決戦、沖縄戦などは限定的合理性の中でも成功した例として挙げている。
人間が限定合理的に行動するという視点も必要だが、情報に非対称性があるというのも現代経済学の主要テーマの一つである。これについては何ら扱っていないのが残念である。
また、限定合理性に基づく組織行動を悲劇から救うのは、常に批判的視点を持ち続けて戦略を見直していくことが必要であるという点は、大いに同意できるところであるが、そもそも人間が限定合理的であるという前提に立ちながら、組織のリーダがそれを乗り越えることを期待している書きぶりには自己矛盾を禁じ得ない。
しかし総じてみると、著者の取り組みは前向きに評価してよいだろう。日本軍だけでなく日本社会のもつ組織的特性をきちんと理解することは、経営学にも大いに貢献するものと期待できる。

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