もうひとつの小さな戦争

2020年9月25日読了

著者は知人のご尊父であり、地域でボランティア活動などをされるなかで、プランクトンの研究をされている多才な方である。
愚息もかつて多摩六都科学館で開催されたプランクトンを観察する会に参加してお世話になった。
その著者の戦時中の疎開体験が綴られた本である。

著者は昭和8年12月生まれなので小学校六年生のときに自宅の荻窪から信州へ集団疎開した。
自宅にいるときに体験した数度の空襲の様子、学校に爆弾が落ちて飼っていた豚が頓死した逸話、飛行機づくりがすきでパイロットに憧れつつ戦闘機や爆撃機を眺めていたことなどが綴られているが、後半は信州のお寺に疎開してからの少年らしい話が続く。
蚤・虱をつぶした話や、近所の畑や木から食料を調達する話などは同世代の親を持つ身としてはよく聞かされたものだ。中でも一番おもしろかったのは、地元の農家から納入されているはずの卵が食卓に出てこないことを知った少年たちが、偵察により先生たちがくすねていたことを見つけ、その先生を殴って疎開先から脱走する話が、時代を象徴する話として面白かった。あの頃のことなので先生に逆らうなどは考えられなかっただろうが、皆で力を合わせて懲らしめてやるという対応は、「食い物の恨み」をかってしまうことの怖さである。

全体として少年たち向けに書かれていると思われる筆致であり、あまり戦争の悲壮感は感じないが、むしろそういう形で戦時中に空腹の中でもいきいきと生きていった子供の様子がよく伝わってくる。

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