聞いたこともない出版社の本に出くわすには、日頃から本屋をぶらぶらするに限る。
そういう時に見つけた本だが、著者は日立のエンジニアだったが今は慶応SFCで研究活動中のようだ。専門分野がネット通貨なのでその道のプロということなのだろう。
本書は、ビットコインに対して批判的な立場で書かれている。ビットコインの基本設計者である、サトシ・ナカモトは「信用ではなく暗号学的な証明に基づく電子的支払いシステムを作る」と宣言しているそうだが、著者は次のように締めくくる。
ビットコインでは、巨大な計算パワーを所有する人間しか参加できない、マイナーたちのネットワークがすべてを制御します。サトシ・ナカモトは結局、別種の「信用される第三者」を作りだしただけなのではないでしょうか。
一方で、研究者としては次のようにも期待を込めている。
政府や中央銀行でない者が貨幣を自分でつくりだすということには、未来の経済社会を考えるうえで、可能性があると私は信じています。
賛否を言う前にやはりビットコインをはじめとするネット通貨がどのようなものなのかということをきちんと理解するということが必要なのだろう。そういう意味では、学校の教科書で、単にお金があれば物が買えるということではなく、経済的な仕組みの中で貨幣が動いているということを学習するように、暗号理論やネットワークセキュリティの上にネット通貨が成立している信用の仕組みを、学校で教えなければならない時代がすぐそこまで来ているのかもしれない。