貨幣という謎―金(きん)と日銀券とビットコイン

貨幣という謎―金(きん)と日銀券とビットコイン (NHK出版新書 435)
西部 忠
NHK出版
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最近は仮想通貨の成り行きに興味があるので、ビットコインなどのタイトルのある本は簡単な内容である限り読むようにしている。何気なく本屋に立ち寄ると、こういうものが目に入るのでついつい買ってしまう。

ハイエクの貨幣論を翻訳した人だけあって、内容は「哲学的」であり、ズバリ「貨幣とは何か」をテーマとしているが、新書版だけあって素人にも分かりやすい。本書の扱う貨幣はいわゆる貝殻とか金属とか紙幣など価値を表象ないしは媒介するところの機能を貨幣と称しており、物としての貨幣ではなく貨幣という概念がなぜ現れてくるのかという根源的テーマの中で、ビットコインも扱っている。

結論から言えば、価値という観念を形にするという行為を「観念の自己実現」と表現しており、自分の理解では価値を情報化するということでありそれをものを媒介とするかデータを媒介とするかの違いが貨幣の種類の違いを生んでいることになる。

これに加えて、他人も自分と同じことを考えているだろうという考えが、何となく継続していく「慣習の自己実現」が貨幣を貨幣として存続させる根拠となっているとし、いわゆる信用創造の根源がここにある。

著者は資本主義あるいは市場自体が、貨幣という存在を抜きにしては語れないと考えており、これも自分の理解では、「観念の自己実現」と「慣習の自己実現」が成立している共同体において貨幣が流通する場所が「市場」であるということになろう。

となれば、例えば特定の店だけで使えるポイントや、地域の商店街だけで使える商品券などの存在も貨幣の走りであり、それがネットワーク化されて使えるようになるSUICAなどのICマネーなどと規模こそ違え同じ役割を持っていることになる。そしてこの貨幣と実物が交換できることと、貨幣同士が交換できることにより、貨幣価値の増減とともに次々と新しい貨幣が生まれるということになる。

ビットコインも斯様な文脈の中で捉えればさして驚くものでもないが、むしろその流通の方法としてPeer To Peer方式を使ったコンピュータのネットワークの上でマイニングという手法を使って「慣習の自己実現」を強制している点が注目に値する特長であろう。いわばその方法が他の方法に置き換わればビットコインは他の貨幣に取って代わられることになるが、他方で利便性と安全性を追求した形で新たな仮想通貨が出てくることもごく自然な成り行きである。

本書ではビットコインの欠点についても敢えて触れてあるp137。
ビットコインの特徴のひとつとして、発行上限額が定められている点がある。これはインフレの抑制策とされているが、ビットコインに対する選好が強まった場合には、貨幣価値の高騰を招くことになり、事実、ある時点から価格変動が激しくなり、日本でビットコインが注目され始めたのもこのタイミングである。貨幣価値の安定を目指してインフレ抑制策を織り込んだ仕組みが実は貨幣価値のボラティリティを上げ、結果的にビットコインの当初の発行者が「差益」を得ることができる仕組みが内蔵されているという指摘は、国債を乱発してインフレを招き国の借金を帳消しにするという仕組みを想像させる。

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