松本三之介・田中彰・松永昌三(訳)中央公論新社(2002年)
松陰晩年の著述の現代語訳。
最も知られている「講孟余話」は野山獄にて囚人相手に、また後に自宅座敷牢で家族向けにも講義した孟子に関する解釈。
国の危機を憂いて国防の増強と人材の育成、海外の知識の吸収の必要性を国の施策とすべく藩主宛に上申した「将及私言」。
下田でのペリーの船に乗ろうとして失敗した一連の話をまとめた「回顧録」。
など、松陰関係の伝記など書物を読めば必ず載っている話が入っている。
自分はよくよく鑑みると、松陰関係の本は今まで随分と読んだつもりだが、一度として当人の著述を読んだことはなかったことを反省。やはり伝記にしても小説にしても、原典があるものはそこに当たらなければならない。
特に回顧録は、主観的記載ではあるものの、客観的に書かれた伝記などを読むよりよほどリアルに感情が伝わってくるし、ペリーが松陰一行を好意的に捉えていたことなどがよく分かる。
獄中とはいえ、その学問に対する虚心坦懐な姿勢や、常に外部に眼を向けて情報を集めようとすること、また弟子(とは言わず同士と言っているが)など人を愛する心など、「至誠」をテーマとして生涯を貫いた松陰の息吹が伝わってくる。 本来は原文で読めば、格調高いといわれる文章の心意気がなお分かるのだろうが、原文を読み下せない自分の無学を恥じる。
先生の「一日百字を怠れば、一年三万六千字を喪う」というお説教が聞こえそうだ。