内部統制とダイエット

米国のSOX法、日本の金融商品取引法以来、「内部統制」という言葉が人口に膾炙するようになった。
概念自体は、大東亜戦後、証券取引法が整備されて、監査制度が導入されたときから「二重責任の原則」の一端として説明されてきたのだが、世間の人に知られるようになるまでに60年もかかったことになる。
法律が具体化される以前から、上場企業を中心に主体的に取り組みを始めたところもあるようだが、腑に落ちていないところがある。
まずは、いわゆる「文書化」という点だけが殊更クローズアップされている点。
本来必要なことは、不正、誤謬、事故などが発生しないこと(予防)や早期に発見できること、そして改善されるという、企業活動の一連の向上プロセスであるべきなのだが、なぜか「文書化、文書化・・・」とお経のように唱えているのは、「形から入って心に至れ」という日本的思考様式の表れなのか・・・。
次は、「文書化の手法」である。「フローチャート」「業務記述書」「リスク・コントロール・マトリクス」(いわゆる3点セット)が揃えられることが文書化の要件のように言われており、内部統制のデファクトスタンダードになってしまっている点。
フローチャートで業務の流れを把握し、RCMでリスクとコントロールポイントを明らかにして、業務記述書で詳細に説明されているのは、第三者が監査を実施するうえでは、体系的に整理された非常に便利なツールであり、本来は外部の監査人が「内部統制を理解するため」に用いられるツールなのだが、なぜか、会社が内部統制を「整理」(整備ではなく)するためのツールとなってしまった。これは、経営者による評価であっても外部監査人による監査であっても、内部統制をどうやって「見るか」という点と、どうやれば内部統制を有効に構築できるかという点とが混同されていることになる。
3番目は、内部統制の「整備」とは何かということがまったく議論されずに、「内部統制は経営全般のテーマだ」とか「財務報告にかかる内部統制」の側面だけが強調される結果、理解が深まらないまま「必要最低限のアプローチをしろ」「経営全般を見直せ」といった両極端な指示が経営者から出てしまう点である。
無論、会社として整備すべき内部統制とは、経営戦略の表裏の関係にあるリスクの把握であり、リスクに対する回避策であり、そのプロセスへの落とし込みであり、定款から始まる諸規程の体系であり、業務マニュアルの整備である。内部統制を整備するというのは、こういった一連の仕事の流れを経営環境と戦略の遂行に併せて常時維持改善していくことを取り決めることであり、一方、内部統制を運用するということはそれを現場で実践していくということなのだが、必ずしもそういった方向での理解にはなっていないようだ。その上で、文書化に金がかかるという主張ばかりが強調されて法律が一方的に悪いというのもへんな議論である(もちろん私は今の法概念をサポートしない立場にあるのだが)。
法律として「内部統制の整備」が導入されてしまったばかりに、焦る経営者の姿勢も分からないではないが、本来は60年も前からある経営者としての責任を、なぜ殊更いまの段階になって「急に」会社として対応しなければならなくなってしまったのか、そこを最も問うべきなのだが。
メタボリック症候群と指摘されて体型に着目しダイエットと称して食事制限をいきなり始める前に、自分の健康とはどういうことなのかをきちんと位置づけた上で、生活パターンを客観的に理解して、やせるためのダイエットではなく、薬膳としての食餌療法(本来のダイエット)に取り組まねば、内部統制とて法律がなくなったり変わったりしたとたんに、リバウンドが来て、元の肥満体に戻るのは目に見えているのだが、そのときは今の経営者はいないのだろうか。

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