夜這いの民俗学・夜這いの性愛論

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論
赤松 啓介
筑摩書房

2015年12月29日読了

著者が播磨周辺地域を中心に行商をしながら得た「夜這い」に関する知見を、民俗学として論考したもの。学術的内容というよりは、書物に残されない夜這いという民俗に関する記録として読むと面白い。

かつての農村部は、重労働でこれといった楽しみもなく、また村全体で一つの家族のように生活共同体が成り立っていたので、村の掟の中での夜這いという慣行があった。夜這いといえば、夫の留守中に他の男が忍び込んでいくことのようであるが、昼間の話題にのぼるなど案外とおおっぴらでもあった。当時の子供は、小さいころから色々な形で性教育を受け、13歳頃になると大人になる儀式として、男児は村の女性に手ほどきを受け、また女児は初潮のお祝いをもらいながら大人になったことを知らしめた。

これらを因習と呼ぶかどうかは後世の価値観での評価でしかないが、人の往来が少なくまた日々農作業に負われる環境においては、村落としての生き残りを図るあらゆる方法が採られていたことは想像に難くない。そのような環境で「政策側」「支配側」から地域を捉えるのではなく、生活者側から実態を捉えようとする意味では、著者の政治的立場による価値観を割り引いても本書は奥深いものがある。

かつて、村祭りや盆踊りは老若男女が集うて相手を探す場でもあったという話を何かで読んだことがあるが、地域に残る祭りの形の中に、そういったものの残滓が見られると思うと、たとえ田舎の小さな祭りであっても(いやむしろ田舎であるほど)興味深いものとなる。

なお、後半は、上方の商人の奉公を経験した著者の商家の人事的な「制度」についての解説だ。こちらのほうにも「夜這い」は話として登場するが、全体的には封建社会から近代に向けて商家が変化していく中で、そこに奉公する女中とか丁稚といった人たちがどのように集められ使用されて行ったかという点につき、内部を経験した立場での記述が中心となっていて、明治、大正の商家の様子が生き生きと伝わってくる。

解説は「おひとりさま」の上野千鶴子でこれがまた面白い。

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