トヨタのカタ

トヨタのカタ 驚異の業績を支える思考と行動のルーティン
マイク・ローザー(Mike Rother)
日経BP社

2016年5月5日読了

トヨタ成長の秘密と言った類の書物はありふれているが、カイゼン、アンドン、カンバンなどトヨタの見える部分に注目している内容が多い。さらにそれを表面的にまねして一時的には旨くいくものの、結局定着しないという事例になる。さらには、トヨタが日本の自動車会社であるにも関わらず、トヨタが日本でも異質な会社であることを忘れて、「日本的経営」なる幻想に囚われることもある。

本書はそういった研究とは一線を画するもので、著者自身がしばらくトヨタの社内において実際にトヨタを体験したことを通じて、トヨタの中にあるものを見出した内容だ。それが本書のタイトルにもなっているカタである。カタとは武道で使われる剣道における素振りや柔道の受身といった基本動作(ルーティン)のことであり、そのトヨタ独自のカタが組織の発展と密接に関わっているとする。

自分なりの理解を加えれば、例えば柔道の受身は柔道で最初に習い、練習でも必ずウォーミングアップを兼ねて始めの段階に行われる。受身は柔道に限らず日常生活の中でも、たとえば自転車に乗っていて転んだときなどに自然と体が反応して大きな怪我をしなくてすんだ、というような話を聴くことがあるが、相手に技をかけられても怪我をしないようになっている。これは技をかける側も安心してかけられるわけで、柔道を学ぶ人が共通に持つ身体知と言えるだろう。

著者の研究で注目すべきなのは、トヨタの工場内部で行われている日常的カイゼン活動の中で人がどのように動いているかという現象面だけではなく、個人レベルにおいてその行動をとる目的や動機面にまで踏み込んで、「一個流し生産」という理想を実現しようとしている点だろう。

カイゼンのカタ、コーチングのカタは結果よりもプロセスに着目していることである。結果はあくまでも結果であって、「目指すべき状態」に対して具体的に何をすべきか、また部分最適にならないように一歩下がって眺めるなどのものの見方がカタの中に含まれている。

興味が沸くのは、そのようなカタがどういうカタから生まれてきたのか。いわばカタのカタ(メタ)に相当するものが何であるか。日常業務の中で何回も繰り返すと望ましい結果が得られる手順としてのカタがそこにあるというのは、見方としては現象面にとどまった観察でも可能である。

実際には、各現場における「コーチと弟子」の関係性の中にあるというのがこの研究の注目点だろう。つまりマニュアルの類ではなく、ある意味での部分的な師弟関係や一子相伝の世界を取り込んでいるところである。言い換えれば、それはテキスト化された形式知では伝えることができない「ものごとへのきづき」を示すことでもある。コーチは決してその問題の対処方法を教えてはならないという決まりがあり、自分で考えさせて回答を聞きながら「気づき」を促すように行動するのが役割であり、よくわからなければ最後は「一緒に現場に見に行こう」という行動をとることになっている。

もう一度ゆっくりと読み込みたい一冊である。

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