経理から見た日本陸軍

経理から見た日本陸軍

著者はかつて防衛省で経理業務に関わっていた経歴があり、歴史好きと業務への関心とが相まって日本陸軍の経理の研究をするために大学院にいき研究者への道を進んだという経歴を持つ。

軍の経理に限らず、かつて経理は帳簿ツケではなくロジスティックスを扱う業務であった。つまり資源の配分(配送なども含む)を通じて円滑な業務の運営と最大限の効率に資することが経理業務の要諦である。つまり軍隊においては武器弾薬に限らず軍人の衣食住に関わるあらゆる調達を、予算制約をする大蔵省と要求する現場の軍務との間にあって、最適資源配分を目指す。

本書はこれまであまり顧みられることのなかった軍隊における細かなお金の話(それこそ、食事の内容と原価の関係など)に切り込んでいるところが斬新で、新書という形で読みやすく出された点は評価できる。

ただ残念なのは、それらがマクロな戦局とどのように絡んだのかという点、いわゆる日本軍の戦略行動が経理からどう見えたかという話はほとんど触れられておらず、どちらかというと経理の手続などが中心に議論されている。

今後の研究に期待したい。


数学にとって証明とはなにか

数学にとって証明とはなにか

数学は数というよりは量や大きさという意味の概念を扱う学問で、証明はなぜそれが意味として成り立っているのかを言葉と記号で説明する。

図形の問題は中学高校で習う内容なので、改めて復習した感覚になり、理解もしやすい。

演繹論理、帰納論理、仮定論理、背理法なども高校生で習う内容だったが、忘れていたので、思い起こすにはちょうどよかった。

最後に出てくるイプシロン-デルタ論法に至ると、何のことやらさっぱりわからない。無限が無限でなぜ悪い。そういうことへのこだわりを捨てない数学者の知的探究心に触れて、自らの無学を自覚するには、いい読みものである。


証明と論理に強くなる

証明と論理に強くなる

小島の数学書はとても分かりやすく解説しようという意欲を感じさせるが、手抜きをしていないので、それなりに理解できてしまうところが却って脳に心地よい疲労感をもたらす。

別に読んだブルーバックス「数学にとって証明とはなにか」に刺激され、本書に至った点では、自分にも少しは勉強しようという意欲があるということか。

本書は数学というよりは論理式を使った証明の方法のこれ以上にない分かりやすく噛み砕いた解説書。

記号としての数字と、数という意味との接点から、演算をどのように説明するかという論理式は、なかなか読ませる。

サブタイトルにある「ゲーデルの門前」は何のことやら。


もうだまされない 新型コロナの大誤解

https://www.gentosha.co.jp/book/b13771.html

コロナについては客観的な分析をきちんと報道しないどころか不安を煽り、エセ専門家たちが便乗して発言するので、何が正しいことなのか分かりにくくなっている。

著者は仙台の感染症(インフルエンザ)の専門医であり、一応は信頼しても良いだろう。

著者のスタンスは、感染症を舐めたら手痛い眼に遭うがかと言って過剰に恐れたり神経質になる必要はないというところにあり、本書ではインフルエンザの経験にこれまでのコロナの知見を加味して、感染リスクを具体的な行動の中からどう抑えればよいかを、素人向けに解説している。

要点は、コロナウィスルの感染は「空気感染」であり接触や飛沫では感染しないというところだ。空気感染とは、エアロゾル(空中に雲のように漂うとても小さな粒子)の状態で文字通り重量で落ちたりしない状態が最も危険という。すなわち、これは風通しの良いところではほぼ感染しないということを意味するため、屋外や換気の良い室内は感染リスクは低いということになる。

これは重要ポイントで、たとえば触ったところを消毒したり手袋をするのは接触感染の予防なので関係ないし、フェイスシールドやアクリル板はエアロゾルを防がないので意味がないことになる。

ラーメン店などは湯気がこもらないようにかなり強い換気をしているためエアロゾルが滞留することはまずないが、カラオケは音がもれないように気密性が高くなっているので空気が籠りやすいなど、具体的なリスクが対策とともに記されている。

信じるか信じないかは読者の判断だろうが、このような知見を専門家は積極的に提示して、公に議論してもらいたい。もちろん反論や反証があるからこそ議論が正当であるとも言えるわけであり、いたずらに保守的になってしまうのは、国民に無理ではなく無駄な負担をかけないためにも必要なことだろう。

前々から飲食店のアルコール提供を禁止することには強い抵抗があるが、ほんらい取り組むべきは、アルコールを飲む人への正しい知識を提供して「静かに飲め」ということだけだ。まして一人酒など歓迎すべきだろう。