シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」

シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」
ISBN 978-4-8222-4980-9
発行日 2013年12月2日
著者名 ネイト・シルバー 著
発行元 日経BP

シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」
https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/13/P49800/

予測に関する統計学的視点からのいろいろな論述。
堅苦しくなく物語として読めるので、500ページ以上もあるが、読み進みのは速い。

データが増えれば増えるほど予測の精度は上がらずむしろ落ちる。
それはデータにノイズが含まれるからであり、その反対にデータの中から有益な情報を示すものがシグナルという意味で使われている。

客観的な真実がないというのではなく、あると信じて追及していく姿勢がよりよい予測に不可欠なこと、また客観的な真実の理解が我々は不十分であることを認識せよという。この考え方に基づき、精緻なモデルを作って分析・予測するよりは、ラフなモデルを更新しながら予測を見直していくアプローチとして、ベイズ的方法がよいとする。

マグニチュード8クラスの地震は(いつとは言えないがある期間内で)想定外ではなく十分に想定しうることや、あの9.11テロも直前の通信が極端に減ったことから、計画が漏れることを警戒して使わなくなったと想定できたことから、異変は察知できたことなど、の例が挙げられている。


辻政信の真実

https://www.shogakukan.co.jp/books/09825401

辻政信とは陸軍の参謀で、貧しい生い立ちからのし上がった経歴や、開戦時の南下作戦を成功させシンガポール陥落に大きな貢献があったことなどから、評価される一方で、ノモンハン事件での独断先行やシンガポールの華人虐殺事件の首謀者として、あるいは戦後の戦犯追及から逃れるために「潜行三千里」にある逃避行をした人物として酷評されるという二面性を持つ。

どちらかというと嫌われている方の軍人であろう。

本書は、若手の記者前田啓介による新しい評論であり、これまでのインタビュを中心とした人物伝に加え公表された外務省外交文書なども参考に、新たな視点で辻政信を論じている。

著者は謙虚に「辻政信という人間が何者であったのか、最後までつかみきることができなかった」と述べているが、軍人としても一人の人物としても好悪がはっきりと分かれている人物であることは間違いないようだ。

「あえて褒めもせず、けなしもない。辻に会った人の証言になるべく忠実に、そして、資料をもとに淡々と辻を書ききった」と後書きしているが、そこには歴史上の人物が後世の価値観によっていくらでも書き換えられることを暗に諭している。

得てして軍人の場合は、「負け戦」の責任を負わされて悪評を得るが、戦争の責任は一個人に帰せるものではなく、かりに辻の例においても独断独走ということができる組織の問題を抜きに語るべきではない。

本書はそういう視点で捉えると、淡々と辻を語りつつも、そのとき組織はどのように動き、判断し、決定して後世語られる「辻政信」を生んだのかという点に思考を向けさせる。おそらくアイヒマンを論じたアーレントと通じるスタンスを持って研究されたのではなかろうか。

すなわち、好悪感情や事象の一断面だけで歴史や人物を語ることは、結果的には後世の歴史においても同じ誤りを繰り返すことへの警鐘が込められているようでもある。


経理から見た日本陸軍

経理から見た日本陸軍

著者はかつて防衛省で経理業務に関わっていた経歴があり、歴史好きと業務への関心とが相まって日本陸軍の経理の研究をするために大学院にいき研究者への道を進んだという経歴を持つ。

軍の経理に限らず、かつて経理は帳簿ツケではなくロジスティックスを扱う業務であった。つまり資源の配分(配送なども含む)を通じて円滑な業務の運営と最大限の効率に資することが経理業務の要諦である。つまり軍隊においては武器弾薬に限らず軍人の衣食住に関わるあらゆる調達を、予算制約をする大蔵省と要求する現場の軍務との間にあって、最適資源配分を目指す。

本書はこれまであまり顧みられることのなかった軍隊における細かなお金の話(それこそ、食事の内容と原価の関係など)に切り込んでいるところが斬新で、新書という形で読みやすく出された点は評価できる。

ただ残念なのは、それらがマクロな戦局とどのように絡んだのかという点、いわゆる日本軍の戦略行動が経理からどう見えたかという話はほとんど触れられておらず、どちらかというと経理の手続などが中心に議論されている。

今後の研究に期待したい。


数学にとって証明とはなにか

数学にとって証明とはなにか

数学は数というよりは量や大きさという意味の概念を扱う学問で、証明はなぜそれが意味として成り立っているのかを言葉と記号で説明する。

図形の問題は中学高校で習う内容なので、改めて復習した感覚になり、理解もしやすい。

演繹論理、帰納論理、仮定論理、背理法なども高校生で習う内容だったが、忘れていたので、思い起こすにはちょうどよかった。

最後に出てくるイプシロン-デルタ論法に至ると、何のことやらさっぱりわからない。無限が無限でなぜ悪い。そういうことへのこだわりを捨てない数学者の知的探究心に触れて、自らの無学を自覚するには、いい読みものである。


証明と論理に強くなる

証明と論理に強くなる

小島の数学書はとても分かりやすく解説しようという意欲を感じさせるが、手抜きをしていないので、それなりに理解できてしまうところが却って脳に心地よい疲労感をもたらす。

別に読んだブルーバックス「数学にとって証明とはなにか」に刺激され、本書に至った点では、自分にも少しは勉強しようという意欲があるということか。

本書は数学というよりは論理式を使った証明の方法のこれ以上にない分かりやすく噛み砕いた解説書。

記号としての数字と、数という意味との接点から、演算をどのように説明するかという論理式は、なかなか読ませる。

サブタイトルにある「ゲーデルの門前」は何のことやら。